第6章 自由な日々
春休みに入り、シュリと連絡を取って長野に行く日を決めた。
帰宅した父に今週末長野に行く事を伝えると、何も言わずに了承してくれた。
長野行き当日、駅の改札の前で紫音と待ち合わせをした。
紫音は大きめの紙袋を持って改札の前に立っていた。
「おはよう紫音。」
「おはよう。」
紙袋の中身が何かは分かっていた。
紫音と花音さんと三人で折った千羽鶴だ。
「シュリ、喜んでくれるかな。」
「きっと喜んでくれるよ。」
そんな事を話しながら、あたし達は新幹線に乗った。
長野に着き、タクシーでシュリが入院している病院に向かった。
シュリの病室のドアをノックすると、中からどうぞーとシュリの声がした。
「シュリ、久しぶりー!」
病室に入ると、去年の夏休みに来た時よりも顔色の良いシュリとベッドの横のパイプ椅子に座る徹がいた。
あたしはシュリを抱きしめた。
以前よりも更に痩せた気がして胸が締め付けられたが、顔に出してはいけない。
「久しぶり。紫音先輩もお久しぶりです。」
「久しぶり、体調はどう?」
「最近はいい感じです。」
和やかな雰囲気で話す二人を徹が微かに笑みを浮かべながら見ていた。
「徹も、久しぶり。」
そう声をかけると、徹が私を見た。
「久しぶり。」
「あんたはどうなの?リハビリ。」
「もう終わった。四月から仕事も復帰する。」
「徹ね、五ヶ月も眠ってたとは思えないくらい元気で。先生も奇跡だーって言ってたんだよ。」
シュリが満面の笑みでそう言って、つられてあたしと紫音も笑った。
徹が目を覚まして一番嬉しいのはシュリだろう。
「徹あんた、どこで働いてるの?」
「眼鏡屋。」
その瞬間、紫音が吹き出した。
「何だよ別所。」
徹が紫音を睨み付けた。
「いや…羽山君が眼鏡屋って。」
紫音は必死に笑いをこらえている。
「スーツ着て眼鏡かけて働いてるんだよ。徹視力良いから伊達眼鏡だけど。」
徹がスーツに眼鏡姿で接客…想像するとあたしまで笑いそうになった。