第6章 自由な日々
地元の駅に着くと、まだチョコレートを渡していない事に気付いた。
「あ、そうだ!」
危うく、大事な物を渡さずに帰るところだった。
「紫音、これ。バレンタインデーのチョコ。」
チョコレートの入った袋を紫音に手渡した。
手作りというだけで渡す時にこんなに緊張するものだと思わなかった。
「花音さんの分も入ってるから。あと、その…手作りしたの初めてだから、口に合わなかったら捨てて!」
そう言うと、紫音は声を出して笑った。
「ありがとう、花音も喜ぶよ。でも、捨てたりはできないなぁ。」
「ま、まぁ…溶かして固めただけなんだけど。来年はもう少し頑張るよ。」
「七瀬が作ってくれた物なら何でも嬉しいよ。」
もう一度、ありがとうと言って紫音はあたしの頭を撫でた。
「じゃあ、あたし先に行くね。今日はありがとう。」
同じ方向に帰るのに、ここで別れなければいけないのが寂しかった。
家の近くを二人で歩くなと言われたから仕方ないが。
そこまで紫音に話していないが、紫音は何となく察してくれていた。
「うん。ありがとう。気を付けて帰ってね。」
「また明日、学校でね。」
「うん、また明日。」
何れは同じ家に帰るようになるのだから、今は我慢しよう。
そう自分に言い聞かせた。
あたしは紫音に背を向けて先に帰った。