第1章 二人の事情
「な、何言って…意味わからないし…。」
「ほら、そういう所も可愛いよ。」
「あ、あんまり可愛い可愛い言うな!!」
「七瀬、顔真っ赤だよ。」
楽しそうに笑う紫音を見て頭を叩こうとしたらその手を掴まれた。
「暴力は良くないね。」
「紫音がからかうからでしょ!!」
「からかってないよ。」
「も、もう帰るわ!お世話になりましたね!!」
そう言ってベッドから立ち上がろうとすると、紫音が私の腕を引っ張った。
「俺、本気で七瀬のこと好きだよ。」
急に真剣な口調でそう言われ、柄にもなくドキドキしている自分がいた。
「別に七瀬はそのままでいいよ。でも俺の前では強がらないで。」
本当は、心の何処かでは誰かに気付いてほしいと思っていた。
私にも、泣きたい時がある。
甘えたい時もある。
紫音の言った通り、それを上手く表に出せないだけで。
「七瀬、座って。」
大学祭の時もそうだったが、何故か紫音には逆らえない自分がいる。
私は黙って再びベッドに座った。