第1章 二人の事情
紫音や花音さん、そして二人の両親の気持ちを思うと紫音を抱きしめる腕に力がこもった。
「…七瀬、そんなに抱きしめられると俺も我慢できなくなっちゃうんだけど。」
「は?え?」
「一応、俺も男だからね。それに君のこと好きな訳だし。」
そう言われて、急に紫音を意識してしまった。
「ご、ごめん!」
慌てて紫音から離れると、紫音はまたクスクスと笑った。
「冗談だよ。」
「あのさ、あたしのことからかって何が楽しいわけ?簡単に好きとか言ったりさ…。」
「好きなのは本当だよ?」
「こ、こんな大女を?可愛いげないし口悪いし性格キツいし男みたいだし…。」
「自分のことそんな風に思ってるの?」
「うん…。」
「七瀬は可愛いよ?」
その時、元彼にフラれた時の事を思い出した。
彼が好きになった、小さくて、可愛らしくて、守ってあげたくなる様なあの子。
ああいう子を可愛い子と言うのだと思う。
「…何言ってんの。あたしなんかが可愛いの部類に入る訳ないじゃん!」
わざと豪快に笑って紫音の腕を叩いた。
いつもみたいに、笑って。
だけど、紫音は笑う所か真剣な顔で私を見つめた。
「そうやっていつも強がってきたんでしょ?」
「強がってないし。」
「背が高いから何?小柄なら可愛いの部類に入るの?それなら俺は逆に小さいから、男としては魅力がないね。」
「そんなこと言ってないよ。」
「七瀬は本当は人一倍繊細だし、か弱いと思う。それを上手く表に出せないだけで。俺から見たら誰よりも守ってあげたくなる可愛い女の子だよ。」
そんな事を言われたのは生まれて初めてで、嬉しさと照れ臭さで戸惑ってしまった。