第6章 自由な日々
「…七瀬、ヤキモチ妬いたの?」
「え…うん。そうだと思う。」
「七瀬、ヤキモチ妬いたりするんだ。ちょっと意外だなぁ。」
紫音がクスクスと笑うから、恥ずかしくなってつい大きな声を出してしまった。
「あたしだって嫉妬したりするわ!!」
一瞬、店内が静まり返り、周りの人達から冷ややかな目で見られた。
「七瀬、声が大きいよ。」
「ご、ごめん…ていうか、何で笑うの。」
「いや…七瀬が可愛くてつい。」
「はぁ?何で可愛いに繋がるわけ?紫音変だよ。」
「はいはい。」
あたしはこんなにもいっぱいいっぱいだというのに、余裕な態度の紫音。
「今までもヤキモチ妬いたことあるの?」
紫音は少し嬉しそうに聞いてきた。
あたしは開き直って電車の件も話した。
「今日、電車の中で女子高生二人が明らかに紫音狙いで近付いて来たから妬いたけど?」
「ああ、あの子達そうだったの?」
「あんなにあからさまに近付いて来たのに紫音全然気付かないし。紫音って他人のことに関しては鋭いくせに自分のことになると鈍いんだなって思ったよ。」
「そっか、ごめんね?」
「もっと自分が格好いいってこと自覚した方がいいよ。」
「それ、褒められてるのかな?」
「褒めてないわ!!」
また大きな声を出してしまい、紫音が笑いながらあたしの口を塞いだ。
「七瀬ってやっぱり可愛いね。」
「…なんか、馬鹿らしくなってきた。」
紫音の手を払って溜め息をついた。
「とりあえず、花音さんのこと理由にしてごめんね。」
「いや、そんな風に思わないよ。それに俺は澪を庇った訳じゃなくて…。」
「わかってる。あの場を穏便に済ませようとしたんでしょ?」
「うん…でも結果的に七瀬に嫌な思いをさせちゃったね。ごめんね。」
「紫音は悪くないよ。」
そこで紫音が注文したコーヒーが運ばれてきた。
「そういえば七瀬、お腹空いてない?」
「空いたかも…。」
「俺もお腹空いたから、何か食べようか。」
あたし達は先程までの騒ぎが嘘の様に普段通りに戻った。
紫音の器の大きさを感じつつも、口に出すのは何だか癪だから言わなかった。
こんなこと、シュリや徹にも話せない。
あたしが嫉妬で感情的になったなんて。
でも、そんなあたしの一面は紫音だけが知っていればいい…そう思っている自分がいた。