第5章 母の裏切り
「そういえば、冬休みもお見舞い行くのかな?」
「あー…それがさ、ちょっと最近親が機嫌悪くて、冬休み中は外出禁止令出ちゃった。」
なるべく重い雰囲気にならない様に、軽い口調で話した。
しかし、紫音は一瞬黙ってしまった。
「冬休み中って…何かあったんじゃないの?七瀬。」
紫音には話せない。
紫音に家の前まで送ってもらっていたのを見られてて、それが原因で外出禁止になったなんて。
「いや、ホントに機嫌が悪いだけなんだ。だから冬休み中は会えないや…ごめんね。」
「それは大丈夫だけど…七瀬、何かあったら話してね?」
「うん、ありがとね。だからシュリのお見舞いは春休みに行けたらいいなぁって思ってる。多分、長期休みの間じゃないと親が許可してくれないし…紫音もバイトあるじゃん?」
「そうだね…あ、羽山君に会ったら一発殴らないと。」
「え、それ本気だったの?」
「うん。シュリと七瀬に心配かけたし…それに俺、羽山君好きだけどやっぱりちょっとムカツクからさ。」
「紫音、徹のこと殴りたいだけでしょ?」
「いやいや、あくまでもシュリと七瀬に心配かけたから、って理由だよ。」
「絶対ケンカになるし、正直徹の方が強そうっていうか…紫音がケンカしてる姿が想像できないっていうか…。」
そう言うと、紫音はフッと意味深に笑った。
「え、何今の。」
「実際に見るまでのお楽しみってことで。」
「お楽しみって…ていうかケンカする気満々じゃん!やめてよー。」
「わかった。シュリと七瀬の前ではしないよ。」
紫音は余裕な態度で徹に接していたが、実は結構根に持っているのかもしれない。
徹は紫音に対して敬語使わないし、呼び捨てだし、敵意向き出しだし。
「将来は仲良くなってほしい。」
「羽山君次第だね。」
「まぁ、確かに…。」
あたしと紫音は冬休み中、会えない時間を埋めるように毎日電話をした。
その間、父の機嫌は悪いままで、家の中には常に重たい空気が流れていた。
紫音と電話をする時間だけが、あたしの心が安らぐ時だった。