第5章 母の裏切り
冬休み最終日の夜。
相変わらず空気は重いまま、家族三人で夕飯を食べていると父が口を開いた。
「七瀬。冬休み中、ちゃんと約束を守ったみたいだな。」
「うん…。」
恐らく母が父に報告したのだろう。
「お前をいつも家まで送っている男、名前は何ていうんだ?」
「別所紫音、だよ。」
「別所…?外国人じゃないのか?」
父が鋭い目付きで母を見た。
紫音を外国人だと思っていた母は、父にそう言ったのだろう。
母が気まずそうな顔をした。
「ハーフなの。」
そう言うと父は納得し、母は安心した様に溜め息をついた。
別に母を庇った訳ではない。
紫音が誤解されたままでは嫌だったのだ。
「今は好きにしなさい。ただし、家の近くを二人で歩くのはやめること。」
父はそう言うと、食事の途中なのに寝室へ行ってしまった。
最悪、別れろと言われると思っていたあたしは安心しきってしまい、この時は特に気にしなかった。
父の「今は」という言葉の意味を。