第5章 母の裏切り
夕方、父が帰宅した。
本当は顔も見たくないが…何も言わないまま部屋に隠ってたらまた機嫌を損ねると思って部屋から出た。
「お父さん、お帰りなさい。」
父はあたしに見向きもしなかった。
どうやらまだ機嫌が悪いようだ。
「七瀬。」
部屋に戻ろうとすると、父に声をかけられた。
「はい…。」
「冬休みの間は外出禁止だ。」
もう何かを言い返す気にもならなかった。
「わかりました。」
部屋に戻ると、紫音から電話がかかってきた。
冬休みの間外出禁止という事は、紫音にも会えないという事だ。
しかし、理由を話さないで会えないとだけ言うのもおかしい。
軽い感じで話そう。
そう思って電話に出た。
「もしもし?」
「七瀬、遅くなってごめんね。明けましておめでとう。」
「おめでとう。今年もよろしくね。」
「うん、よろしく。」
いきなり外出禁止の話題を出すのも悪いので、別の話題から入った。
「今日は家族と過ごしたの?」
「うん、両親も3日までは休めるみたいで。花音が福笑いやりたいって言い出して福笑いやったり、庭で凧揚げしたり…毎年そんな感じなんだけどね。」
紫音は楽しそうに話した。
内心羨ましいな…と思いつつ、あたしは相づちを打った。
「七瀬は?ゆっくりできた?」
「あ…うん!テレビ見たり…あ、午前中に徹と電話したんだ。」
「羽山君と?珍しいね。元気だった?」
「うん。なんかね、ついに男の子に手出したみたい。」
「…え…。」
ほんの冗談のつもりが、電話越しに紫音が一瞬固まったのが分かった。
「冗談だよ!夏休みにシュリのお見舞いに行った時にさ、集中治療室の前で騒いでた男の子覚えてる?」
「ああ…安達くん、だっけ?」
心なしか紫音の声に安堵の色が含まれている気がした。
徹って信用あるようで無いな。あんなにシュリに一途なのに。
「そうそう。その子と徹、友達みたいで。電話した時その子が徹の家にいてさ。」
「へぇ、あの羽山君に男友達ができたんだ。本当に友達なの?」
「…紫音、もう少し徹のこと信用してあげてよ。」
「冗談だよ。」
紫音は胡散臭い笑い声を上げた。
今の発言、絶対に半分は本気だったと思う。