第4章 紫音の両親
「あら?なんだか一瞬ボーッとしちゃったわ。」
声のトーンも口調も戻り、花音さん自身も不思議そうに首を傾げた。
一瞬だけ、妖精さんから花音さんに戻ったのだろうか。
今まで紫音からそんな話は一度も聞いた事が無いが、あり得なくはない。
紫音を見ると、目に涙を浮かべていた。
「…ごめん、ちょっとトイレに行ってくるね。」
そう言って紫音は席を立った。
その後、トイレから戻ってきた紫音は何事もなかった様に普段通り花音さんに接した。
6時になると、紫音が言った。
「そろそろケーキ出そうか。」
「まだ早くない?」
「妖精さんは今日は7時には寝ちゃうから。」
「え?そうなの?」
「クリスマスはね、サンタさんがいつ来ても良いように早く寝るんだ。ね?妖精さん。」
「ええ、そうよ。」
余程プレゼントが楽しみなのだろう。
あたしは納得して頷いた。
紫音が冷蔵庫からケーキを持ってきた。
「今年はこれにしたよ。」
ブッシュドノエルを見て、花音さんは手を叩いた。
「素敵なケーキね!木の形をしてるわ。」
あたしが切り分けて、メリークリスマスと書かれたチョコのプレートと砂糖菓子のサンタは花音さんのケーキの上に置いた。
「あら、チョコもサンタさんも私がもらっていいの?」
「うん、いいよ。ね?紫音。」
「うん。」
「ありがとう!」
花音さんは嬉しそうにケーキを食べ始めた。
三人でケーキを食べていると、急に花音さんの手が止まった。
「どうしたの?」
あたしがそう聞くと、花音さんはサンタを指でつまんで空いている皿に置いた。
「なんだか食べたら可哀想な気がするわ。」
そう言って悲しそうな顔をする花音さんが可愛くて、思わず笑みが溢れた。
「じゃあ、サンタさんは食べないで置いとこうか。」
紫音が優しい口調でそう言った。
「ご馳走さまでした。」
ケーキを食べ終えると、花音さんは立ち上がった。
「あと30分でお風呂に入って歯を磨かないと!」
忙しい忙しい、と言いながら花音さんはリビングから出て行った。
「いよいよ紫音サンタさんの出番だね。」
冗談混じりにそう言うと、紫音は照れ臭そうに笑いながら頷いた。