第4章 紫音の両親
1時間後、紫音が帰ってきた。
「おかえりー。」
「やっぱりイヴだから人が凄いね。ケーキ屋もスーパーも凄く混んでたよ。」
紫音は若干疲れた顔でそう言った。
「そうだよね。お疲れ様、ありがとね?」
「二人のためだからね。」
あたしは紫音が持っているケーキ屋の箱を見た。
「あ、その箱!駅前の美味しいケーキ屋さんのだよね?」
「うん。今年はブッシュドノエルにしたんだ。いつもホールケーキだから、たまには少し変わったの買ってみた。」
「いいね、花音さん絶対に喜ぶよ。夕飯の準備もバッチリだよ。」
「ありがとう。」
花音さんが階段を下りてくる音がして、紫音は慌ててケーキを冷蔵庫の一番上の段にしまった。
「紫音、おかえり。」
「ただいま、妖精さん。」
花音さんはあたしの横に立つと耳元で小さな声で言った。
「プレゼントのことは、紫音には絶対に絶対に内緒よ?」
余程サプライズで渡すのが楽しみなのだろう。
あたしは笑って頷いた。
「なに?内緒の話かな?」
紫音が微笑みながら首を傾げた。
「内緒の話よ。紫音には内緒!」
「何だろう、気になるなぁ。」
「ダメよー。内緒なんだから。」
そう言って花音さんはまた自分の部屋に戻った。
恐らく作業の続きをするのだろう。
「花音は分かりやすいなぁ。プレゼントを作ってるんでしょ?」
紫音がクスクスと笑いながら聞いてきたから、あたしはあえて内緒、と言った。
こんなに幸せでいいのだろうか。
幸せ過ぎて怖いと言う言葉をたまに聞くが、今のあたしは正にそれだった。