第3章 忘れられない1日
30分くらいだろうか。
紫音は花音さんが落ち着くまでずっと彼女を抱きしめていた。
その間あたしは、ただ二人を見ている事しかできなかった。
花音さんは紫音の腕の中で眠ってしまった。
紫音は安心した様に溜め息をつくと、花音さんをそっとソファーに寝かせた。
「…ごめん、七瀬。ありがとう。」
「あたしは大丈夫だけど…花音さんどうしたの?」
「たまに現実に戻ってパニックを起こす事があるんだ。きっかけは色々なんだけど…今日はテレビがついてたから、もしかしたら強姦関連のニュースか何かを見たのかもしれないね。」
だから紫音はすぐにテレビを消してと言ったのか。
そしてあの薬は、精神科の薬だろう。
「普段、テレビはつけたら駄目だって言ってるのに…どうしてつけちゃったんだろう。」
紫音は深い溜め息をついた。
「紫音、大丈夫…?」
紫音の傍に座り、背中を擦った。
「大丈夫。ただパニック起こしたの久しぶりだったから少し慌てちゃって…。」
紫音が無理して笑うから、あたしは紫音を抱きしめた。
珍しく、紫音があたしの背中に腕を回した。
紫音はずっとこうやって花音さんを守り続けてきたのだろう。
「七瀬、今のを見て分かったと思うけど…俺と一緒にいると、たまにこういう事がある。これから先、花音が妖精さんから元の自分に戻れるかは分からないから…俺は花音の傍にいなきゃいけない。両親は何れは花音を精神科に入院させるって言うけど…俺はそんなの嫌なんだ。花音を見捨てるようなことはできない。」
「…うん。」
「だから…今のを見て嫌だと思ったら…俺とは別れて。」
紫音がそう言った瞬間、あたしは紫音の頬を叩いた。
「嫌だなんて思うわけないでしょ!!」
紫音は驚いた顔であたしを見た。
「紫音が花音さんを見捨てられないことくらいわかってるよ。あたしだってそんな事してほしくない。二人のこと、ずっと守るって言ったでしょ?花音さんがずっと妖精さんでも、あたしはそれでいいと思ってるよ。あたしは紫音と結婚して家庭を築きたい。その中には勿論花音さんだっているんだよっ…。」
感情が込み上げて泣いてしまった。
「七瀬…。」
「あたしはそんな軽い気持ちで紫音と付き合ってない。簡単に別れてとか言わないでよ。」
「…ごめん。」
紫音はそう言って目を伏せた。