第3章 忘れられない1日
「何だか面白い子だったね。」
紫音はクスクスと笑っているが、あたしは正直、少し引いた。
「安達さん、って呼ばれてたよね。今度シュリに聞いてみよっか。」
あたしは思わず苦笑いをしながらそう言った。
安達さんが居た辺りまで行き、扉の"ICU"という文字を見つめた。
「…ここに徹が居るんだね。」
シュリと徹はこんなに近くに居るのに、会う事はできない。
そう思うと切なくなった。
「俺さ、羽山君とは一生馬が合わないと思う。」
紫音も"ICU"の文字を見つめながら話し出した。
「でも、彼の事は凄いと思ってる。まだ10代なのに、好きな人のためにこれだけの事をするんだから。彼のシュリへの想いは誰よりも強いよ。だから絶対に羽山君は目を覚ますと思う。」
「…そうだね。そうだよね。」
涙が溢れた。
あたしにとってシュリと徹はどちらも大切な友達だ。
二人には本当に幸せになってほしいと思っている。
それなのに、どうして二人がこんな目にあわなければいけないのだろう。
紫音があたしの手を握って優しく言った。
「帰ろうか、七瀬。」
あたし達は病院を出て、タクシーで来た時と同じ駅に戻った。