第3章 忘れられない1日
あまり長居をするとシュリの体に触ると思い、丁度シュリの昼食の時間になったのであたし達は帰る事にした。
「シュリ、また来るね。」
「うん、来てくれてありがとう。」
シュリは少し寂しそうだった。
あたしも寂しかった。
「シュリ、羽山君の目が覚めたら俺に一発殴らせてね。」
紫音がいつもの穏やかな口調でそんな事を言うから、シュリは驚いた。
「紫音先輩が徹を殴るんですか?」
「可愛い後輩と彼女にこんなに心配をかけてるんだ、一発くらい殴らないと気が済まないよ。」
「紫音先輩ってそんなキャラでしたっけ…?」
苦笑いをするシュリ。
紫音はニッコリと笑った。
「まぁ、理由はどうあれ紫音が殴った瞬間に徹はブチ切れるだろうね。むしろ徹も紫音を殴る理由ができて喜ぶか!」
そう言って笑うと、シュリも楽しそうに笑った。
良かった。シュリが笑ってくれて。
「じゃあシュリ、またね。」
「うん、またね。紫音先輩…。」
シュリが紫音に目で何かを訴え、紫音は微笑んだ。
「うん。任せてね。」
何の事かはあたしには分からないが、アイコンタクトで通じ合うこの二人はある意味凄いと思う。
あたしと紫音はシュリに別れを告げて病室を出た。
「紫音、最後のあのアイコンタクト何だったの?」
「秘密。」
そう言う紫音の顔には笑みが浮かんでいた。
「ねぇ、ちょっと集中治療室の近くに行ってみない?」
あたしの提案に紫音は頷いた。
集中治療室の近くに行くと、何やら騒がしい人が居た。
小柄で可愛らしい顔をした、年齢はあたし達と同じくらいの男の子が集中治療室に向かって叫んでいた。
「徹!早く起きろよな!いつまでシュリのこと待たせる気だー!!」
「何、あの子…二人の知り合い?」
「さぁ…?」
遠目からその子を見ていると、そこに看護師が来た。
「安達さん、毎回困ります。ここは病院なんですよ?もう少し静かに…。」
「だって僕、家族じゃないから集中治療室の中に入れないんだもん!外からじゃ大きな声で言わないと徹に届かないじゃないですか!」
「お気持ちはわかりますけど、他の患者さんもいらっしゃいますので…。」
安達さんは半ば強制的に集中治療室の近くから何処かに連れて行かれた。
本当に一瞬だったが、嵐が去った様な気分だ。