第1章 二人の事情
「な、何だよコイツ…!」
あたしを羽交い締めにしていた男が紫音を見て怖じ気づいたのか、あたしから離れた。
紫音は刺した男に見向きもせず、もう一人の男にナイフを向けた。
「男二人で女の子襲うなんて、ちょっと卑怯なんじゃない?」
怖いくらいの笑顔に、あたしは背筋が凍った。
「コイツ、やべぇよ…!」
刺された男が苦痛に顔を歪めながら言った。
「オイ、立て!逃げるぞ!!」
もう一人の男が刺された男を立ち上がらせ、二人は逃げて行った。
紫音はナイフを持ったまま、あたしの目の前にしゃがみ込んだ。
「大丈夫?」
「何で…。」
「ああ、俺の家この近くだから。たまたま通りかかってね。」
「たまたまって…じゃあ何でナイフなんか持ってるの?」
「護身用的な?」
「だからって何で普通に刺せるわけ?おかしいよ、紫音…。」
「あんな、自分より弱い者に手を出す世の中のゴミみたいな奴を刺して何が悪いの?」
紫音は不思議そうに首を傾げた。
彼の中にある深い闇を垣間見た気がした。