第3章 忘れられない1日
「シュリ、その指輪羽山君から貰ったの?」
紫音の言葉で、あたしはその時初めてシュリの左手の薬指に指輪がはめてある事に気付いた。
「あ、はい。婚約指輪だ、って。」
ほんの少しだけ、シュリの顔が明るくなった。
「二人、結婚する予定なの?」
紫音がいつもに増して優しい口調で問いかけた。
「…私が白血病だって分かった日に、徹に言われたんです。5年生存率が50%くらいっていう事実に落ち込んでいた私に、それなら5年後に結婚しようって。そのために生きろ、って。」
徹らしい言葉だな、と思いつつ、あたしはある事を思い出した。
シュリが長野に帰る日、写真部のみんなで見送りに行ったあの時。
二人が約束の話をしていた事を。
あの時は何の事か教えてもらえなかったが、もしかして…。
「二人があの日言ってた約束って、もしかしてそれのこと?」
「うん、そうだよ。」
シュリは照れ臭そうに笑いながら頷いた。