第11章 繋いだ手
泣き疲れた七瀬は、そのまま眠ってしまった。
彼女の寝顔を見ていると、愛しさが込み上げてきた。
俺は、七瀬と出会ったこと、愛し合ったこと、そして…この選択を後悔したことは一度も無い。
花音のことも含め、俺の全てを受け入れ、理解してくれた七瀬に心から感謝している。
俺はこれからも、何があっても七瀬を守り続ける。
そして、幸せにする。
眠る七瀬の髪を撫でていると、スマートフォンが鳴った。
登録していない番号からの着信。
逃亡生活を始めてから様々な事に警戒してきた。
一瞬電話に出ようか迷ったが、何となくこの電話には出た方が良いと思った。
「…はい。」
「俺だよ、別所。」
名前を聞かなくてもすぐに相手が誰か分かった。
羽山君だ。
七瀬を起こさないように、俺はベッドから少し離れた場所に移動した。
「久しぶりだね。」
「久しぶりだね、じゃねぇよ。駆け落ちしといて随分と呑気じゃねぇか。」
「明日にはこの国ともお別れだから。国外に行けば少しは安心できるからね。ところで、どうして俺の携帯の番号知ってるの?」
俺と羽山君はお互いの連絡先を知らない。
羽山君が俺の連絡先を知る方法の検討はつくが、一応聞いてみた。
「どうせ分かってんだろ?嫌味な奴だな。」
「シュリの携帯見たんでしょ?わざわざ君の携帯からかけてくるってことは、シュリには秘密で連絡してきたのかな?」
「勝手に携帯見たことシュリには悪いと思ったけど、どうしてもお前と話したくてな。」
「へぇ、君が俺とそんなに話したいなんて…明日は雪でも降るのかな?」
「ホント、一々嫌味な野郎だな…単刀直入に言うけど、完全に縁切らなくたって、俺とお前が連絡取る分には問題ないんじゃねーの?」
羽山君は自分と俺が繋がっていれば、シュリと七瀬の縁が切れないと言いたいのだろう。
だけどね、羽山君。
そこは譲れないんだよ。
これは七瀬の意思で、苦渋の決断でもあるから。
「七瀬の両親はどこまで手を伸ばすか分からないから。」
そう言うと、羽山君は小さく溜め息をついた。