第11章 繋いだ手
「そうか…シュリが妊娠した。あいつ本当はそれを七瀬に伝えるために連絡したんだよ。」
シュリが妊娠…少し驚いた。
きっと、その喜びを七瀬と分かち合いたかったのだろう。
「…そう、おめでとう。」
「これを七瀬に伝えるか伝えないかはお前に任せる。」
「わかった。教えてくれてありがとう。」
しばしの沈黙の後、最後に羽山君はこう言った。
「シュリは、お前らの幸せを願ってる。だから絶対に七瀬のこと幸せにしろよ。」
羽山君の言葉に背中を押される日が来るとは思わず、小さく笑ってしまった。
「約束するよ。」
それを聞いた羽山君は別れを惜しむこともなく、あっさりと電話を切った。
彼らしいといえば彼らしい。
それにしても、羽山君はなかなか"可愛がり甲斐のある"後輩だった。
ある意味彼のことは一生忘れないだろう。
最後まで一度も"別所先輩"と呼ばなかったが、そこは大目に見てあげよう。
なんて思いながら、俺はその場で羽山君の携帯番号と着信履歴を消した。