第11章 繋いだ手
「…はい。」
「紫音先輩、シュリです。あの…七瀬に電話かけたらこの番号は使用されてないって流れて…。」
久しぶりに聞く親友の声は、戸惑いと焦りが入り交じっていた。
やはり思った通りで、あたしと連絡がつかなくて紫音に連絡してきたようだ。
「ああ…うん。七瀬、番号変えたから。」
「何かあったんですか?」
心配してくれているのが電話越しでも伝わってくる。
相変わらず優しいな…なんて思うと、それだけで涙が溢れそうになる。
「シュリ、俺達、海外に行くから。」
「え…?」
あたしは紫音に辛いことを任せてしまっている。
紫音も辛いに決まっている。
色々な事があったが、紫音はシュリと徹のことをとても可愛がっていたから。
紫音は感情を押し殺すように、淡々とした口調であたし達の事情を話した。
「そんな…紫音先輩、七瀬は?一緒にいるんですよね?七瀬に代わって下さい!」
全てを聞いたシュリは声を荒げた。
胸が締め付けられて、苦しくて…それは紫音も同じはずなのに、彼はあくまでも冷静に話した。
「シュリ、申し訳ないけどそれは出来ないよ。」
「どうしてっ…。」
「七瀬の気持ちを考えてあげて。君達と関係を断ち切ることは、七瀬にとって凄く辛いことなんだ。今君と話したら、別れが辛くなるでしょ?」
少し間が空いた後、シュリはこう言った。
「…分かりました。でも、最後に1つだけ、七瀬に伝えてほしいことがあるんです。」
「なに?」
「例えもう会えなくても、離れてても、ずっと友達だよって。」
シュリが泣きそうな声でそう言った。
勝手に姿を消したあたしのことを責めるどころか、ずっと友達だと言ってくれるなんて。
今まで何度も思ったが、シュリに出会えて本当に良かった。
聞こえてるよ、シュリ。
あたしも同じ気持ちだよ。
勝手な奴でごめんね。
ずっと友達って言ってくれて、ありがとう。
心の中で何度も何度も謝り、そして感謝した。
紫音は悲しげに目を伏せて、あたしの手を強く握った。
「…わかった、伝えとくよ。それじゃあシュリ…バイバイ。」
「さようなら、紫音先輩…。」
電話を切ると、紫音はあたしを見てフッと笑った。
「七瀬は泣き虫だね。」
そう言って、あたしの涙を優しく指で拭った。