第11章 繋いだ手
―――2ヶ月後。
「明日、だね。」
隣に座る紫音の肩に寄りかかりながら、小さく呟いた。
今日は日本で過ごす最後の夜。
あの後、紫音の祖父母に事情を話すと、快く承諾してくれた。
しかし、一つ問題があった。
紫音の祖父母の家には、留学生がホームステイをしていた。
そのため、7月にならないと受け入れられないと言われたのだ。
この2ヶ月間、あたし達は必死に逃げた。
あたしの両親が直接接触してくる事はなかったが、探偵の下山の執念は凄かった。
正直、もう駄目かもしれないと思った時もあった。
その度に励まし合い、想いを確かめ合い、あたし達はここまできた。
"一緒にいたい"
たったそれだけの願いを糧に。
突然、紫音のスマートフォンが鳴った。
逃亡生活を始めてから、着信音を聞くとつい身構えてしまう自分がいる。
スマートフォンを手に取った紫音は、画面を見て驚いた。
「…シュリ…?」
「えっ…?」
紫音がスマートフォンの画面をあたしにも見せてきた。
"着信・明智シュリ"
間違いなく、シュリからの着信だった。
鼓動が速くなり、手の平に汗が滲む。
どうして今頃…。
いや、シュリと徹はあたし達の置かれている状況を知らない。
あたしは新しい連絡先を二人に教えていない。
突然あたしと連絡がつかなくなり、紫音に連絡してきたのかもしれない。
「どうする?出る?」
紫音の問いかけに即答できなかった。
鳴り止まない着信音に気持ちが急かされる。
自分の中で勝手に決別したくせに、もう一度シュリの声が聞きたいと思ってしまう。
でも、今シュリと話したらイギリスに行くのが辛くなる。
動揺するあたしを見て、紫音が少し悲しげに微笑んだ。
「七瀬と代わってって言われても代わらないから、出てもいい?俺も最後に別れの挨拶したいからね…大切な後輩に。」
それは、全てを話そうという意味で。
別れの挨拶がしたい、それは紫音の本音だろう。
だけど紫音は分かっているのだ。
今シュリと話したらイギリスに行くのが辛くなること、それでもシュリの声が聞きたいこと。
あたしの気持ちを、紫音はいつも汲み取ってくれる。
「ごめん、あたし我が儘で…逃げてばっかで…っ。」
「…スピーカーにするからね。」
紫音は優しくあたしの頭を撫で、電話に出た。