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薔薇と向日葵~side story~

第10章 運命の日


あたし達は黙って花音さんの話を聞いた。

「その男…下山(シモヤマ)って名乗ったわ。下山に二人のことを聞かれたの。私が紫音の姉だとわかってて近付いたみたい。不気味な男で…私のことを揺さぶるような感じで、二人が今どこにいるかとか、連絡を取っているかとか聞いてきた。私は入院してたから何も知らないって言ってもなかなか引かなくて…七瀬ちゃん、大阪の携帯ショップで携帯を買い替えなかった?」

大阪で携帯を買い替えたことは紫音とあたししか知らない。
それを下山…恐らく父が雇った探偵だろう。
どんな手を使ったか知らないが、下山はそこまで知っているということだ。

「うん、確かに買い替えた。」

あたしがそう答えると、花音さんは「やっぱり…。」と呟いた。

「二人は今九州にいるのよね?下山はそこまでは掴んでないみたいだったけど、着実に二人に近付いてるわ。これを二人に伝えようと思ってお母さんの携帯を借りて電話したの。」

話終わると、花音さんは小さく溜め息をついた。

何も言えないあたしの代わりに紫音が口を開いた。

「花音、教えてくれてありがとう。」

「ううん…ただ、二人が逃げてからもう1ヶ月以上経つでしょう?いつまで追いかけるつもりなのかしら、七瀬ちゃんの両親は…。」

花音さんが不安げにそう口にして、あたしもつい不安な気持ちを漏らしてしまいそうになった。
その時、隣に座る紫音が力強くあたしの手を握った。

「七瀬は俺が守る、絶対に。だから大丈夫だよ。」

それは花音さんに向けられた言葉でもあり、同時にあたしに向けられた言葉でもあるような気がした。

紫音は絶対にあたしの前で弱音を吐いたりしない。
花音さんも、実際に探偵が接触してきて驚いただろうに冷静な対応をしてこうしてあたし達を助けてくれている。

あたしばかり守られていては駄目だ。
そう思い、あたしは紫音の手を強く握り返した。

「花音さん、ありがとう。あたし達は大丈夫だから。」

紫音が少し驚いたような顔であたしを見た。

「大丈夫だから、ね。」

今度はしっかりと紫音を見つめてそう言った。

あたしは自分が思っていたよりずっと弱い女だ。
紫音と出会ってそれを知った。

それでも…紫音が一緒にいてくれる限り、あたしは大丈夫。
例え不安に押し潰されそうになっても、暗闇をさ迷おうとも、紫音と一緒なら怖くないから。
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