第10章 運命の日
卒業式を終えた夜、あたしはシュリに電話をかけた。
まさかこんな事になるとは思わず、あたしは家でシュリの話を沢山してしまった。
もしかしたら、父の手が回りシュリと徹にも迷惑をかけてしまうかもしれない。
二人には穏やかで幸せな日々を送ってほしい。
だからあたしは、シュリに別れを告げる。
あたしの大切な、初めての親友に。
シュリが電話に出るまでのコール音を聞いてるだけで涙が溢れそうだった。
泣いたら駄目だ。
そう自分に言い聞かせたが、シュリと過ごした日々が鮮明に頭を過り、後でかけ直そうかと思ったがそれよりも先にシュリが電話に出た。
「もしもーし?」
明るいシュリの声。
何か話さなければと思うのに、涙が止まらない。
「どうしたの?」
電話越しだがシュリが少し心配そうにしているのが伝わってきた。
あまり長く話したら、あたしはさよならを言えなくなってしまう。
「シュリ、あたし、紫音と生きていくね。」
普段通りの口調で話すことができない。
言葉数も少なくなってしまう。
シュリからしたら意味が分からないだろう。
「うん、結婚するんでしょ?」
「うん…でもね…。」
溢れる涙がシュリに伝わらない様に、口元を手で覆った。
「七瀬?」
シュリに、一番伝えたいことがある。
以前も伝えたが、最後にもう一度、伝えたい言葉。
「シュリ、あたし、シュリと友達になれて本当に良かったよ。」
「え?うん…。」
シュリはこれが最後の会話になると思っているはずなどなく、不思議そうにした。
何とか伝える事ができた。
もうこれ以上会話を続けたら、あたしは泣き崩れてしまう。
「徹と幸せになってね?バイバイ、シュリ。」
あたしは一方的に電話を切った。
ごめんね。シュリ、徹。
何も言わずにいなくなるけど、許してね。
シュリの病気が再発しませんように。
二人がいつまでも幸せでありますように。
そう願って、あたしは二人の前から姿を消した。