第8章 たった一つの願い
徹が三人分の飲み物を持ってリビングに戻ってきた。
「七瀬、コーヒーでよかったか?」
「うん、ありがと。」
徹はまるで自宅に居る様にシュリの家に馴染んでいた。
「なんか、あんたもここの家の住人みたいだね。」
徹からアイスコーヒーの入ったコップを受け取りながらそう言うと、正面に座るシュリがクスクスと笑った。
「お父さんもお母さんも徹のこと気に入っちゃって、私が入院してる間も頻繁に家に呼んでたみたいで。」
「そうなんだ…。」
「俺の親父も早くシュリに会いたいってうるせえからテメェが長野に来いって言ってやった。」
徹が呆れた様に溜め息をつきながらシュリの隣に座った。
お互いの両親に認められて、仲が良くて…そんな二人が少し羨ましかった。
あたしと紫音はこれからどうなるのだろう…そんな事が頭を過った。
「…七瀬、なんか元気ないね。」
不安な気持ちが顔に出てしまったのか、シュリが心配そうな顔をした。
「そんなことないよ!」
あたしは今、上手く笑えているだろうか。
「別所と何かあったか?」
徹が溜め息混じりにそう言った。
「何もないよ。」
「ふーん。」
徹は納得していなさそうだが、それ以上深く追及してこなかった。
「七瀬、何かあったら話してね?」
「うん、ありがとね。でもホントに何も無いからさ。」
シュリの言葉に笑って答えた。