第8章 たった一つの願い
その後私達は、他愛もない話に花を咲かせた。
シュリと徹は本当に幸せそうで、そんな二人が眩しかった。
二人を見ていると、嬉しい気持ちと同時にこの場にいることが段々と辛くなってきた。
どうしても、二人と自分達を比べてしまう。
「そろそろ帰ろうかな。」
そんな自分が嫌でそう言うと、シュリが少し寂しそうな顔をした。
「もう帰っちゃうの?夕飯食べていけば?」
「ごめん、夜紫音と会う約束してるんだ。」
勿論、そんな約束はしていない。
だけど他に理由が思い浮かばなかった。
「そっか、それなら帰らないとだね。」
理由を聞いて、シュリは心なしか嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあタクシー呼ぶか。」
そう言って徹がタクシーを呼んでくれた。
「七瀬。」
「なに?」
「結婚式、紫音先輩と一緒に来てね。」
「…うん、当たり前じゃん!」
シュリの言葉に笑って頷いたが、心の中では不安が渦巻いていた。
シュリと徹の結婚式。
その頃まで、あたしと紫音は一緒にいられるのだろうか。
「約束だよ?」
シュリはやはり何か勘づいているのか、そんな事を言った。
「うん、約束ね!」
だけどあたしは、この約束を守れなかった。