第8章 たった一つの願い
3日後、あたしは午前10時発の新幹線で長野に向かった。
長野に行く事は紫音には話さなかった。
11時過ぎに長野に着くと、改札口を出た所に徹が立っていた。
事前に徹から、シュリの代わりに迎えに行くと聞いていた。
「徹、久しぶり。わざわざありがとね。」
「おう。別所は?一緒じゃねえの?」
「ああ…紫音は仕事休めなくてさ。」
「ふーん。ま、あいつは来なくてもいいけど。」
徹は相変わらず口では紫音に対して冷たいが、真っ先に紫音がいない事に触れた辺り、やはり何だかんだ気にしているのではないかと思ったがそれは黙っておいた。
シュリの自宅に向かうタクシーの中で徹と話をした。
「良かったね。シュリが退院できて。」
「あいつ、長い間よく頑張ったよ。」
徹らしからぬ優しい発言だった。
徹もこの約3年間でだいぶ大人になったというか、性格が丸くなったというか。
「ホントだね。シュリ、大学に戻るのかな?」
「さあ?ただ決めるのはあいつだけど、もう少し落ち着いたら一緒に住むか聞いてみようとは思ってる。」
「一緒に住むって…長野で?」
「うん。俺の仕事のこともあるし、近くに住んでた方がシュリの親も安心するだろ。」
「あんたシュリのこと養えるの?」
「それくらいの稼ぎはある。」
徹はすっかり頼りがいのある男になっていた。
知り合った時は気分屋で何をきっかけに爆発するか分からない爆弾の様な男で、シュリの方がしっかりしていたというのに。