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薔薇と向日葵~side story~

第8章 たった一つの願い


あたしはその日から、必要以上に両親と会話をしなくなった。
食事も部屋で一人でとるように言われ、それに従った。
家庭内の空気は重く、紫音とも連絡は取らず、気分の晴れない日々が続いた。

夏休みに入り、久しぶりに嬉しい出来事があった。
シュリが退院したのだ。

「5年以内に再発しなければ完治したと思っていいって。まだしばらくは長野の実家にいるんだけどね。」

シュリは電話で嬉しそうに話してくれた。
あたしは自分の事の様に嬉しくて、シュリに会いに行く事を決めた。

卒業までは自由にすればいいと言われたのだ、両親の本心を知った今、遠慮をする気はなかった。

シュリから電話が来た日の夜、久しぶりに自分から父に話しかけた。

「お父さん。シュリが退院したからあたし会いに行ってくるから。」

会いに行ってもいいか、と聞くつもりはなかった。
前の様に許可を得るのではない。
一応、行く事を報告するだけだ。

「好きにしろ。」

父がそう言って寝室に入ると、母があたしに1万円札を渡してきた。

「貴女、行くって言ってもお金無いでしょう?バイトもしてないんだから。」

「え…。」

確かにあたしの財布の中にはかろうじて往復の新幹線代が入っているだけだ。
バイトを許可しない代わりに、両親は月に1万円のお小遣いをくれていた。
その残りがあたしの全財産だ。

「…いいよ。新幹線代はあるから。」

「もしも何かあった時にギリギリのお金じゃ困るでしょう。お父さんには言わないから持って行きなさい。」

母の真意が分からなかった。
母は父の味方のようで、あたしの事を助けてくれる時もある。

とりあえず、お金があるに越したことはない。
ギリギリのお金だけで行くのは心許ないのも事実だ。
あたしは1万円札を受け取った。

「ありがとう、お母さん。」

自分の部屋に戻り、貰ったお金を見つめながら考えた。

あたしは親に不満を抱きながらも、金銭的な面で甘えているし苦労をした事もない。
そう思うと複雑な気持ちになった。

中途半端な自分が嫌だった。
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