第8章 たった一つの願い
驚くあたしを見て紫音は申し訳なさそうに目を伏せた。
「…ごめん。そうじゃなくて、俺に迷惑がかかるとかそんなことはいいんだよ。ただ…あの家にいたら七瀬はずっと辛い人生を送ることになると思う。だから俺に何ができるか考える時間がほしいんだ。」
紫音は目を上げて真剣な眼差しであたしを見つめた。
あたしは両親に逆らえず、幾度となく自分の感情を押し殺してきた。
諦める事に慣れてしまった。
そうしなければいけない、そうした方が楽だと自分に言い聞かせてきた。
今回もそうだ。
どうせ、両親には逆らえない。
紫音に迷惑をかけるくらいなら別れた方がいい。
そう思ったが、紫音の言葉を聞いて譲れない思いが芽生えた。
あたしのたった一つの願い。
「紫音と一緒にいたい…っ。」
涙が溢れるほど、強く強くそう思った。
紫音はあたしを抱きしめて優しく囁いた。
「大丈夫だよ七瀬。俺に任せて。」
あたしは紫音の答えが出るまで待つことにした。
事実上、あたし達は初めて距離を置いた。