第8章 たった一つの願い
紫音を連れて自宅のマンションを飛び出した。
「何でこんなことになるのよ…。」
悲しさや悔しさ、そして両親に少しでも期待した自分の愚かさを憎み精神不安定になった。
「七瀬、とりあえずうちに行こう。」
紫音は落ち着いている様に見えるが、胸の内では何か思っているのか、いつもより強くあたしの手を握った。
紫音の家に行くと少し落ち着いた。
いつの間にかあたしにとって、両親がいる自宅よりも紫音の家の方が安心できる場所になっていた。
「あたしは親を説得して、紫音と結婚したいよ。」
そう言って紫音を見つめると、紫音はあたしから視線をそらした。
「…少し、考える時間をくれないかな。」
予想外の言葉にショックを受けた。
紫音なら、一緒に説得すると言ってくれると思ったから。
「やっぱりあんな親の娘と結婚するのは嫌?」
「そうじゃなくて…。」
紫音がこんな風に迷う事は滅多に無い。
その姿を見たら昂っていた感情が一気に冷めた。
「…ごめん。冷静に考えたらあの親を説得するなんて無理だろうし、逆らったら何されるかわからないもんね。」
逆らったら、紫音に迷惑をかけるかもしれない。
そう思うとあたしの中で"別れる"という選択肢が生まれた。
「紫音に迷惑かけたくないしさ、別れることも考えないとか。」
恐らく紫音も同じ気持ちで迷っていると思ったあたしは、そう言って無理矢理笑ってみせた。
紫音のことを愛してるからこそ、これ以上迷惑をかけたくなかった。
原因はこちら側にあるし、自分から切り出す事が今のあたしにできる事だと思った。
「そうじゃないっ…!!」
普段穏やかな紫音が声を張り上げたから、驚いて体がビクリと跳ねた。