第7章 自由の理由
「私は…入院するわ。」
「え…?」
「これ以上、二人に迷惑かけたくないもの。二人には幸せになってほしいと思ってる。」
あのクリスマスの日も、花音さんは同じ事を言っていた。
「だから、迷惑だなんてっ…。」
「七瀬ちゃん。」
花音さんは悲しげに、でも優しく微笑んだ。
「今までありがとう。入院する前にもう一度七瀬ちゃんに会いたいと思ってたの。」
花音さんはあたしの後ろに立つ紫音に目を向けた。
「紫音も、ありがとう。七瀬ちゃんのこと、ちゃんと幸せにしてあげるのよ?」
「…うん、わかった。」
何も言わずに頷いた紫音。
振り向くと、紫音は一筋の涙を流しながら微笑んでいた。
「ねぇ、本当にこれでいいの?紫音前に言ってたじゃん。花音さんを入院させたくないって、見捨てるようなことできないって…っ。」
「七瀬ちゃん。」
感情的になるあたしを宥める様に、花音さんに優しく名前を呼ばれた。
「これはね、私が決めたことだから。紫音は私を見捨てた訳じゃないのよ。」
そう言われてしまうと、それ以上何も言えなかった。
花音さんと過ごした時間が走馬灯の様に頭を過り、涙が溢れた。
「二人とも本当にありがとう。幸せになってね。」
5日後、花音さんは精神科の病院に入院した。