第7章 自由の理由
あたしはゆっくりと花音さんに近付いた。
「花音さん…でいいのかな?」
花音さんは小さく頷いた。
「辛いこと思い出しちゃった…?」
花音さんは唇を噛みしめた。
あたしはそっと花音さんの頭を撫でた。
「あたしには分からないくらい辛いことだと思うけど…花音さんが死んじゃったら悲しいよ。」
「七瀬ちゃん…。」
こんな時、気の利いた言葉なんて浮かばなくて。
ただ、花音さんが死んだら悲しいから。
それをそのまま伝えた。
「ごめんね…ごめんね…。」
花音さんは涙を流しながらあたしの頬に手を添えた。
「痛かったでしょ…?」
「全然大丈夫。」
そう言って笑ってみせると、花音さんは小さく呟いた。
「私は今まで何をしてたの…。」
この日から、花音さんは妖精さんではなくなった。