第1章 鳴かずば
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目覚めた銀時は微妙な気持ちになりながら布団の側に置いてあるジャスタウェイ時計を覗き込んだ。時刻を見れば、針は5時前をさしている。その日は午後まで仕事がないので、二度寝をしようと銀時は布団をかけ直した。
依頼人はかまっ娘倶楽部の西郷特盛。どうせ仕事は深夜過ぎまで続くだろうから、今のうちに体力を温存しておいたほうが良いはずだ。そう思い、再び目蓋を閉じる。しかし、古い記憶を夢で見た所為か脳は眠りにはつかず、むしろ思考を忙しなく巡らせていた。
頭によぎるのは幼い頃に経験した甘酸っぱい思い出だ。端から見ればクラスメイトの女子に話しかけられる男子の図だが、当時は誰がなんと言おうと至福の時を銀時は過ごしていた。笑顔で元気に声をかけてくれる少女が何よりの心の癒しであり、同時に胸を締める存在でもある。
彼女に恋心を抱いていた事実が酷く懐かしい。振り返れば単純で馬鹿なおつむをしていたものだ、と銀時は幼い自分に呆れる。喋りかけられただけで心奪われるなんて、アホでもそうそう無い。その上、今でもそんな初恋を引きずっている大馬鹿な大人の自分にも、銀時は呆れを通り越して感心すら覚えた。