第1章 鳴かずば
これまた突然の提案に銀時は戸惑う。しかし、その賭けは決して公平なものでは無かった。ずば抜けで元気な五葉を泣かせるなど不可能に近い。何事もプラス思考な彼女を傷つけるには相当な事をしなければならない。
第一、好きな娘をわざわざ泣かせる馬鹿はこの世に存在しない。むしろそれで嫌われたら元も子もないだろう。しかも本当にやれば常葉は絶対に銀時を殺しにくるのが目に見えている。シスコンのこの男が妹の涙を見て黙っているはずがない。要は、この賭けは一種の宣戦布告なのである。「妹はやらん」と忠告されているのだ。
当時、その事に気づいた銀時は内心とても凹んでいたが、今はそんな事はどうでも良い。冗談半分でさせられた賭けだったが、勝利の女神はまさしく銀時に微笑み、勝利を許した。
「コイツが腰曲がったババァになるまで会えると思うなよ」
そう呟けば何処からか「ああ、任せた」とかつての戦友の声が聞こえた気がした。