第1章 鳴かずば
「だから、頼むからもう二度とあんな事するな」
銀時は懇願する。今、抱きしめている愛おしい存在にはどうしても消えて欲しくなかった。その為ならば、己の暗部を教えるのに戸惑いはない。銀時自身、攘夷戦争を通して沢山の苦しみを味わって来た。それこそ、並の人間に打ち明けられるような生温いものでは無い。けれど、だからこそ銀時は伝えたかったのだ。自分でさえ手に入れられる幸せがあるのだと。五葉にも、手に入れられる至福があるのだと。
その想いが通じたのか、五葉の瞳は色を変えた。
「……お兄ちゃん、許してくれるかな?」
「何を?」
「私が、生きる事」
「そんだけじゃ許さねーだろうな。アイツはお前に『笑って』生きて貰わにゃあ納得しねーだろうよ。」
小さな笑みが、五葉の顔に浮かぶ。蓄積されていた罪悪感、悲しみ、苦しみ、全てから解放されたような、安心したような表情。今まで背負って来た重荷を一気に下ろしたからだろうか、そのまま彼女は銀時の腕の中で安らかな眠りにつく。その頬には兄を亡くしてから一度も流れなかった一筋の涙が伝っていた。