第1章 鳴かずば
「もう嫌だ。生きたくない。お兄ちゃんに会いたいっ」
「会わせねーよ、絶対に」
即答の後、銀時は五葉の体を優しく引き寄せ、再び己の腕に招き入れる。その動作は川で五葉を助けた時とは対照的で、ゆっくりと包み込むような温かいものだった。語りかける声も、怯える幼子に話しかけるようにとても柔らかい。
「やっとお前に会えたんだ。だから手放さねーよ。」
ここからは銀時が想いを打ち明ける番だった。
「お前がお喋り好きだから兄貴が死んだ? 馬鹿言え、お前の口は誰も殺せねーよ。寺子屋の奴らに笑顔を与えていたその口が、人を殺せるはずがねーんだ。兄貴が死んだのはお前の所為じゃない。強いて言えば時代の所為だ。だからもう、自分を不必要に苦しめるな。……それになぁ、オメーだけじゃねーんだよ」
遠い記憶が銀時の脳裏に蘇る。
「護りたくても護りきれねーで、時には俺自身の所為で、俺ァ何人もの命を取り零しちまった。」
それは終戦後、一度も口にしなかった彼の弱音だった。いくら強くても、いくら「白夜叉」と恐れられても、結局は救えきれなかった命がいくつもある。その中には、敬愛していた師の首も含まれる。本当に大切なものは護れなかった。その苦しみは今でも胸に巣食っている。
「けど後ろばっか見てて何になる? んな事してちゃあ、やり直せるモンもやり直せやしねぇ。それを教えてくれる連中が、今の俺にはいる。オメーにはそんなヤツが居ねーってんなら、俺がお前にそれを教えてやる。」
苦しみは決して消えない。けれど銀時は万事屋の皆、かぶき町の皆のお陰で己の弱さと向き合う事が出来た。そして向き合った上で前に進む事も教えてもらった。ハチャメチャな毎日を送る事が、どれほど幸せな事かを全身全霊で知る事が出来た。