第1章 鳴かずば
河原に設置された物。それは晒し首が並ぶ獄門台である。台に並べられていたのは、幕府が国賊と看做した攘夷志士の生首であり、中には見覚えのある兄の首も置かれていた。体から切り離された兄の表情は文字通り死んでおり、閉じられていない瞳は何処までも遠くを見つめているように感じる。哀れな姿だった。そんな兄と目が合ったような気がして、五葉は怒りや悲しみよりも先に、己の存在に失望する。
戦後、情勢が大きく変わったのを五葉は知っていた。かつては英雄と誉め称えられた攘夷志士達も、今ではただの犯罪者。戦が終わったとは言え、幕府は彼らを粛清の対象としたのを知っていたのだ。並の志士だったのならば、平穏な日々を生きられたのだろう。しかし名の知れた攘夷志士は容赦なく狩られて行く。それなりに名を轟かした兄が狙われるのは、少し考えただけで分かるはずだったのだ。
「……おにいちゃん、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさっ」
地面に膝をつき、再び泣き崩れる。
男手一つで育ててくれた、たった一人の大切な家族は己の所為でこんな無様な終わりを迎えてしまった。攘夷戦争の時、五葉が安心して暮らせる日の本にする為に戦いに行った常葉に、五葉は仇で返してしまったのだ。役人ではと疑わず、愚直にも男達を兄の元へ案内して死に至らしめてしまった。口は災いの元とはよく言ったもので、己の誰とでもするお喋りが原因で最愛の家族を永遠に失った。全ては己の所為。己の過ち。己の罪。