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鳴かずば(銀魂:銀時夢)

第1章 鳴かずば


 飛び跳ねる神楽は作戦成功とばかりに喜んだ。友達の家、とは違うかもしれないが、神楽は志村家にお泊まりするのが好きだった。新八が食事などの世話を全てしてくれる上、姐御と親しんでいるお妙とも楽しい時間が過ごせる。家自体が広いため、浴槽も寝床も当たり前のように広い。良い事尽くしなのである。お泊まりが出来そうな展開になれば、神楽は機を逃すまいと遠回しにおねだりをした。新八も新八で神楽の心情を理解しているのか、あっさりと道場へ誘う。

「ははっ、来る気満々だね。それなら早くお泊まりの準備してね。定春の分も忘れないでよ。銀さんも一緒にどうですか?」

「いや、俺はちょっと出かけるとこがあんだ」

「こんな時にですか? ちゃんと台風が酷くなる前に戻ってくるんですよ。 もうウィルス・ミスの介抱は嫌なんで」

「わーってるよ」

 一応、銀時も誘ってみるが返事は否だったため、新八は神楽と定春だけ連れて帰る。一人になった銀時は未だに収まらない胸騒ぎに苛立ちながらジャンプを机の上に投げ捨てた。こんなに強い雨の中を歩くのは馬鹿しかいないだろうが、知った事かと銀時は傘を手にして万事屋を出る。

 行き先も分からず、ただかぶき町を彷徨っていた銀時は予想に反さずずぶ濡れだった。さしている傘は強風で何本かの骨組みをやられている。辛うじて銀時の頭だけは濡れずに済んでいるが、それも時間の問題であった。恐らく傘はあと数分の命だろう。気が晴れないから外に出たものの、いざ外出しても正体の分からぬモヤモヤは消えなかった。

 これでは外に出た意味が果たしてあるのだろうか。いい加減引き返すのが賢明なのかもしれない。そう思いながら深いため息をついた銀時の視界に人影が映った。

 雨の所為で視界はとてつもなく悪いが、少し先に見えるのは女性である。しかも見覚えのある人だ。それは、つい数日前に再会した五葉の後ろ姿。傘もささず、ただぼーっと立っている。しかし、よく観察すれば彼女の視線は下を向いており、何かを見つめているようだった。銀時は五葉の視線の先を見た途端、心臓が早まるのを感じる。
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