第1章 鳴かずば
その悩みは午後過ぎになっても銀時の思考を占めた。事務所の社長椅子に座り、足をだらしなく机の上に乗せながらジャンプを手にしてはいたが、内容は一向に入ってこない。ずっと同じページを眺めていれば、後ろから窓を叩く軽い音がした。振り向けば外は薄暗く、一粒二粒と水滴がガラスに当たってはすーっと下へ流れてゆく。
「雨?」
そう呟けば突如、言いようの無い不安が銀時の胸に宿る。
「ああ、もう降り始めたんですか。今夜は台風が来るんでしたよね? 酷くなる前に僕はもう帰りますから。残りの洗濯物は頼みましたよ。」
万事屋に来て家事をしていた新八はそう切り出し、着物を畳む作業を止めた。それを見た神楽も定春をブラッシングしていた手を止め、新八に突っ掛かる。
「おい、ダメガネ。仕事は最後まできっちり終わらせてから帰るヨロシ。そんなんだからお前はダメガネなんだヨ。」
「ちょっとォォオオ! 洗濯物とかは本来、アンタらの自己責任でしょうが!! 自分達でやって下さいよ!」
「それに今晩の飯、新八が当番ネ。なに台風を言い訳にバックレようとしてるアルか?」
「仕方ないでしょ? まさかこんなに早く降り始めるとは思わなかったんだから。台風が収まって出勤できるようになったら、ちゃんと出来なかった分の食事当番はやるから。」
「駄目ヨ。私の胃袋はもう新八の地味な飯をウェルカムする準備が整ってしまったアル。銀ちゃんの飯も、私の飯も受け付けないネ」
「はいはい。自分で作るのも面倒だし、冷蔵庫が空っぽだから銀さんにご飯を任せるのも嫌なのは分かったから。仕方ないなぁもう、うちに来る?」
「ヒャッホーイ! 飯と広い寝床ゲットヨ!」