• テキストサイズ

妄想恋綴り

第1章 常連さん_沖田総悟




「雨、やみましたね」

日差しが柔らかく差し込んでくる。
町は日常を取り戻していきつつあった。


「...そろそろかねィ」

そう呟くと、沖田さんは徐にすくりと立ち上がる。


「いっちゃうんですか?」

図々しくなってしまった私の心は
もう少しだけ、と彼を求めてしまって。

自分でもそんな言葉が口からこぼれたことにびっくりした。


「お巡りさんも暇じゃないんでィ」
「いつも暇そうなのに」
「…あんた言うようになったな」
「通り雨のお陰ですよ」


我ながら沖田さんと同じことを思う。

けど仕方ないじゃない
これは雨のせいなんだから。


「違いねェ。そンじゃ」

くるりと背を向け、出入り口の方へとすたすた歩いていく。

お客様は、ちゃんとお見送りしなくっちゃ。
そんな風に適当に理由をつけて
彼の背中を追った。

出入り口まで来ると、
お天道様がいつものように明るく私を照らす。



「……また来やす」

去り際、こちらを向きかけた彼の横顔が
そう言った気がしたから、

“お席、取っておきますね”
って、いつも通り微笑んだ。


いつもなら言わない言葉。

すんなり言えたのは、

雨に洗われた世界が
それまでよりちょっと輝いてみえたから。






/ 9ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp