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妄想恋綴り

第2章  遣らずの雨_3z沖田総悟




第二体育倉庫。

此処に雑然と並ぶスポーツ用具たちは、
あまり使われていないものが多い。

だから人の出入りも少なくて、
それをいいことに剣道部の連中が
使わない竹刀やら防具やらを置いて行って、
もはや剣道部の物置と化している。

サボるにはちょうどいい部屋だから、
俺がよく贔屓にしている場所だ。


いつもなら誰かがいる方が珍しい。

でも今日は違った。


「・・・成瀬、?」

数日前に目を奪われたあの子。

図らずともその名前が口をついて出ていた。


跳び箱に腰掛けて、
じっと雨音の響く天井を見上げていた彼女がこちらを向く。

その大きな瞳はどこまでも黒く、深く、
それでいて真珠のような涼しさをそこに称えている。
長い睫毛はその末端までも神秘をまとい、
俺は不覚にも足がすくむようだった。

小さく開かれた柔らかそうな唇が、
そっと息を吸い込むのを感じた。


「…雨宿りしてるの」

暫くの間の後、俺に向けていた視線を自分のつま先へそらして、彼女は小さく呟いた。


…濡れた髪が、束になって時々雫を落としている。


「へぇ・・・」

気温が上がって、ベストもセーターも着れなくなった頃。

腕捲りをした長袖ブラウスは
うっすらと彼女の肌を透かす。

突然のこの夕立は、
彼女の艶めかしい色香をより一層放たせていた。


「でも、なんでよりによって、こんな場所で」

これ以上みていると、
自分の芯から沸き起こる何かに抗えなくなってしまう気がして、
思わず目をそらした。

またこちらへ視線を向ける気配がする。


「一番近くて」
「…そうかィ」

「ここ、貴方の場所?」
「まぁ、そんな感じでさァ」
「ふうん…」

「…」
「…」

「おめェ、」
「え?」
「いつも、どこで何してんでィ」

数回瞬きを繰り返して、彼女がじっとこちらを見る。
負けじとこちらもじっと見つめる。

「お巡りさんみたい」

少しの沈黙の後、成瀬はそう言って
ぷっくりした唇から白い歯をのぞかせ
クスクスと笑った。

初めて見る彼女の人間らしい表情に
心がとくっと跳ねる。

俺は慌てて雨音を聞くことに集中した。



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