第1章 常連さん_沖田総悟
「何かご注文なさいますか?」
「んん、いい」
「そうですか」
ちょうどお客さんの波が途切れる頃。
お団子つくりで忙しい店主のおじちゃんは
いつもこのタイミングを見計らってふらりと店を出ていく。
その間、私は店番をすることになっている。
そんなタイミングで雨が降り出したものだから
今このお店にいるのは
私と沖田さんのふたりだけ。
「ここ、座りなせェ」
所在なさげに立っていた私に
彼は自分の隣を叩いてみせた。
「でも・・」
「いいから」
「...失礼します」
仕方なく隣へ腰掛ける。
心臓の音、聞こえてないかな。
「・・・」
「・・・」
どちらも何も話さない。
しばらくして先に口火をきったのは、沖田さんだった。
「…おめェ、っていうのか」
「え?…どうして私の名前を」
「お巡りさんはなんでも知ってるんでィ」
「こわい、ですね」
「あんたのスリーサイズも知ってまさァ」
「えっ?!」
咄嗟に自分の腕で体を抱き込んだ。
当の本人はといえば、一切たじろぎもせず
今日は天気がいいねくらいの一言を言ったように
平然とした顔をしている。
「も、もう…冗談よしてくださいよ」
「本当でさァ」
「なっ・・」
「嘘」
「ちょっ、ちょっと沖田さんっ!いい加減に…っ」
恥ずかしいし!意味わかんないし!
からかわないでください、
その言葉は、次の沖田さんの一言で打ち消された。
「…名前。」
「え?」
「俺の名前、知ってたんですかィ」
「そりゃあ、知らない訳ないじゃないですか
ここらじゃとっても有名なんですから。
ス、スリーサイズは知りませんけどね!」
「特別に教えてやろうかィ?」
「いりませんっ」
ぷいっと顔を背けて外を見る。
雨はまだ止まない。