第1章 少しだけスキャンダル<双子0歳>
「気にするなって言っても気にするだろうとは思うけどさ…。
お前、もうちょっとしたたかになった方がいいよ。
会社はさ、お前を使って【子育てを全力で応援する会社】っていうイメージを世間にアピールするんだから。
お前、ある意味、広告塔か客寄せパンダだよ?
だからさ…お前もっと開き直ってさ、会社を利用しなよ。
双子に手が掛かるのなんて10年もないよ。
子どもなんてあっという間に親の手を離れるんだからさ。
10年なんて会社員やってればたいした期間じゃないよ。
お前、定年まであと何年よ?
10年、双子中心に仕事してその後何年残る?
10年後、死ぬほどこき使ってやるから…今は少しゆっくりしな?
そうでなくてもお前、新人の時からかなり忙しかったはずだから…」
「東山さん…ありがとうございます。」
そういう櫻井の声に涙が混じる。
わかって見ない振りをする東山。
「お前、今日、休日出勤だろ?
気持ちが落ち着いたら、帰っていいよ。
むしろ帰りな。
お疲れさま、また来週ね。」
そういって東山はミーティングルームを出て行った。
残された櫻井はこみ上げる涙を押さえられずその場で泣いた。
乱れる感情がようやく落ち着いたところでトイレに駆け込む。
顔を洗い、涙の跡を消したところで小さく気合いを入れた。
アナウンス部に戻り、東山に一声掛けて荷物を手に帰宅の途についた。