第3章 a day in our life <双子2歳>
そして、現在、櫻井家でもその意向は尊重され、あのオレンジ色の一族は出入り禁止になっている。
かわりに上陸を許されたのはネズミの王国の王様とその友達たち。
双子たちも気に入っているようなので家のなかをすごい勢いで侵食している。
ねずみとアヒルとりすとその他もろもろ。
自宅からそう、遠くないところに総本山があるのも原因かもしれない。
雅紀が部屋を双子たち仕様にするのには彼なりの理由がある。
病院というところは子どもにとって多かれ少なかれ恐怖を感じる場所。
まして、自分の伯父とはいえ診察すれば時に痛い思いをさせることもある。
予防接種なんてその最たるものである。
だからお互いすこしでも笑顔でいられるための工夫のひとつだったりする。
ほかにもいくつか双子たち用に用意をし、白衣を脱いで雅紀は診察室の中にいた。
まもなく、電子カルテがパソコンに上がり、外待ちから「櫻井智さん、和也さん3番へどうぞ」という看護師の声が聞こえた。
と同時に子どもの泣き声の二重唱とあやす声。
もはや、ここではお馴染みの光景。
だから誰も慌てないし文句も言わない。
雅紀も椅子を立ち、外待ちに出る。
「潤くん、おつかれ」
にこやかな雅紀。
対照的に若干疲れた顔の潤。
「相変わらずでごめん」
「気にしない気にしない。
どっちからにしようか?」
言いながら双子に手を伸ばす。
「和、まーのところにおいで」
「やー、まーくん、ない~」
大泣きで拒否して潤に掴まる。
まったく動じない雅紀は今度は智に手を伸ばす。
「じゃ、さと、おいで」
「ないの~、ないの~、しゃと、ない」
これまた拒否の智。
「ふたりとも…困ったねぇ…。
潤くん、とりあえず中、はいろ」
困ったと言いつつ全く困ってない雅紀。
双子を抱く潤を診察室に促した。