第9章 小さな恋のうた <双子4歳>
『櫻井様』そんな出だしで始まった手紙にはさとみちゃんのお母さんの気持ちが綴られていた。
さとみちゃんのうちに第二子が誕生した直後にお父さんの海外赴任が決まり、少しでも側にいる時間を作りたいとお母さんの育休中に赴任先に行くことにしたという。
下の子が産まれて赤ちゃんがえりが激しくなったところに見知らぬ土地に短期間とはいえ行くことになりかなり不安げだったそうだ。
『智くんと和也くんからの手紙を何度も何度も開いては嬉しそうにしていました』
さとみちゃんが智と和也からの手紙に支えられたと書かれていた。
そして、元気になったさとみちゃんが二人のためにお父さんの赴任先でお土産を選んだので受け取ってほしいとあった。
「あっ…!」
結びの部分に漢字で書かれていたさとみちゃんの名前を見た翔が思わず声を上げた。
「ん?どうしたの?翔兄」
「いや、さとみちゃんって、智美と同じ漢字なんだなぁって…」
翔が声を上げた理由を雅紀に話す。
「へぇーそうなんだぁ、さとみちゃんとともがねぇ。
確かにあの名前はどっちでも読めるもんね?」
「おかあさん?」
「いっしょ?なにが?」
翔と雅紀の会話に双子が不思議そうな顔で聞いてくる。
「ん?あのね、さとみちゃんのお名前の漢字とお母さんの名前の漢字が一緒なんだって。
読み方は違うけどね?」
雅紀が二人の疑問に丁寧に答えた。