第9章 小さな恋のうた <双子4歳>
雅紀がこの日の勤務を終えて戻るとリビングでは前日と同じような光景が広がっていた。
智と和也はそれぞれ真剣な顔で画用紙に向き合っている。
「パパぁ、『ちゃん』ってどうかくの?」
「お、『さ』と『と』はうまく書けたね?
『ちゃん』はこうやって書くんだよ?」
潤が用意した画用紙にお手本を書き、さらに手を添えて下の方に練習させる。
智はそうでもないが苦戦しているのは左利きの和也。
どうしてもうまくいかなくて癇癪を起こしてる。
「潤くん!できない!かけない!
もぅーーーーいや!!」
「そうだよなぁ、和にはなかなかハードだよなぁ……。
どうする?このまま渡す?」
「やーだー!かくーーー!でもかーけーなーいー」
「まぁ、難しいからねぇ…」
それでも根気よく付き合う。潤。
そこに着替えてきた雅紀も加わる。
「ほら、まーくんも手伝ってあげるからそんなに怒らないよ?和?」
「うーーー。わかったぁ…。
あのね、『す』がね、くるん、できなの」
「オッケー、じゃ、ここで練習しよう?」
いらない裏紙を出してきて和也の手に自分の手を添えてなんども『す』を書いていく。
「う、こんなに何度も『す』だけ書いてるとゲシュタルト崩壊起こしそう…」
そんなこんなでなんとか書き上げたふたり。
それをそれぞれ封筒に入れて大事に保育園のカバンに仕舞う。
「あした、わたそうね!」
「うん!さとちゃんにわたすの!」
「ね?」
「ね?」
ふたり、満足げに微笑んだ。