第9章 小さな恋のうた <双子4歳>
「で、あれ、どうしたの?」
翔がダイニングで潤の手料理を頬張りながら、なにかの作業に没頭する双子を見る。
「うん、なんかね、保育園のお友達に渡すって帰ってきてからずっとああやってるの」
潤もビール片手にリビングのローテーブルに広がったたくさんのクレヨンに目をやる。
「二人とも?翔兄、帰ってきてるよ?
おかえりしなくていいの?」
雅紀がタイミングを見計らって双子に声をかけた。
瞬間、ばっと立ちがって智がダイニングに飛び込んでくる。
「パパ、おかえり!」
クレヨンで汚れた手で翔に抱きつこうとするのを潤が止めた。
「潤くん…なんで?」
「その手で抱きつくのは反則じゃない、智?」
「はんそくじゃ…ないもん」
頬を膨らませて抗議するような目で潤を見る。
「手、洗ってからなら何も言わないよ?」
「むう…」
「翔ちゃん、おかえりなさーい」
不貞腐れる智の横から手を洗った和也がしれっと翔の膝に登る。
「はい、ただいま。
和、お膝に乗るとパパ、ご飯食べれないよ?
智はお手手、洗っておいで?」
和也を膝から下ろしながら言う。
膨れる智を雅紀が洗面所に連れて行き、潤が和也を促す。
「ほら、和、自分のお椅子に座って?」
和の椅子を引きながらそう言った。