第8章 お正月 <双子6歳>
荷物がなくなって身軽になった翔たちはそれぞれ子どもたちと手を取ってPiccadilly Circusに向かう。
Piccadilly Circusはサーカスの言葉が表すように円形の空き地で、大きなネオン看板で有名な場所である。
ニュースなどでも度々映されるその場所に智と和也が反応する。
「しょーちゃん、しょーちゃん、あれ!」
智がネオン看板を指差しながら翔の手を引っ張る。
「うん、有名な奴だよね?智、テレビで見たのかな?」
「うん!すごい!本物だぁ」
嬉しそうに見つめる智。
一方、和也は広場の真ん中にある噴水に目が行っている。
「まーくん、あれ!」
和也が指差すのは通称「エロス」の像。
ギリシャ神話に出てくる愛の神エロスをモチーフにしていると言われている。
「あれね、愛の神様なんだって。和たちみたいに双子なんだって」
「ぼくたちと一緒なんだぁ。お兄ちゃんなのかな?弟なのかな?」
和也が興味深げにいう。
「あの像を造った人は弟のアンテロスのつもりで作ったんだって。
ところが周りの人たちがなぜか『あれはエロスだ』って言ったらしくて今は兄のエロスと呼ばれてるんだよ」
「ふーん。
弟なのにお兄ちゃんなんだ!変なの。
ねー、まーくん、あそこ乗っていい?」
和也が噴水の下の石段を指す。
「もちろんいいよ。写真撮ろうか?」
「うん!智と一緒がいい」
そういうと和也は智に声を掛ける。
2人でなにか話しながら笑顔でカメラに納まった。