第8章 お正月 <双子6歳>
しばらくして音楽が聞こえてきて目の間をグレイのコートを着た衛兵が通り過ぎて行く。
頭にはクマの毛皮の背の高い帽子。
昔見たおもちゃの兵隊のような衛兵の姿に智も和也も興味津々だった。
実際の衛兵の交代を見るのには少し離れたところだったがきびきびとした動きは見ていて清々しいものだった。
あんまり長々と見ていても子どもたちが飽きるかもと思い、翔は上を向いて智たちに声をかけた。
「智、和、どうする?
このままもう少し見てる?
それとも二階建てバスに乗る?」
「二階建てバス!僕乗りたい!」
「パパ、僕も、僕も乗る!昨日見たやつでしょ?」
二階建てバスという言葉に反応した子どもたち。
「そうだよ、ロンドン市内にはまだたくさん走ってるから…乗りに行こうか?」
「うん」
2人は大きく頷く。
それを合図に雅紀と潤は2人を肩からおろした。
「なんかすごく重くなった気がするんだけど」
肩を廻しながら雅紀が言う。
「うん、重くなった。いつまでも小さいと思ってたのにな?」
潤も首を廻しながら言う。
「そろそろ肩車は終わりだな。
2人とも寂しい?」
翔が2人に鞄を渡しながら聞く。
「まぁ寂しくないて言えば嘘になるかな?」
雅紀が笑いながらいう。
雅紀の笑顔が冬の太陽の日差しのように暖かい。
「でもまぁこうやって大きくなってくんだもんね。」
潤は前を歩く双子を見て感慨深げに言った。