第8章 お正月 <双子6歳>
「兄貴?」
和也が不思議そうに潤に聞く。
普段から二人のことを話さない訳じゃない。
ただその時は『お父さん』『お母さん』と言って話しているから珍しく感じたんだろう。
「智と和のお父さんのこと。
俺の兄さんだよ」
「ねー、そろそろいかない?」
雅紀が言う。
「おっと、そうだね。
智くんと和くんはまだ無料だから。
誰かと一緒にいれば入れるからね?」
斗真がオイスターカードの使い方を簡単に教えつつ2人に告げる。
2人はわかったと頷いてそれぞれ雅紀と潤と手をつないで改札をくぐった。
「相変わらず圧迫感がすごいね、ロンドンの地下鉄は」
雅紀が天井をみながら言う。
「アメリカのサブウェイとは違うよなぁ」
ニューヨークにしばらく留学していた潤が当時を思い出しながら言う。
「まぁこの天井の低さも含めてロンドンの地下鉄がチューブって呼ばれる所以だよね?」
翔が智と和也の手を握りながら言う。
「あんだーぐらうんどじゃないの?」
智が翔を見上げながら聞く。
「お、よく知ってるね、智くん」
「保育園の絵本で読んだの」
なぜか和也がどや顔で言う。
「そうなの?」
翔が智に聞くと智は大きく頷いた。
「イギリスの地下鉄はアンダーグラウンドって言われてるよ。
でもね、まるでチューブみたいな形をしてるから、Tubeって呼ぶ人が多いんだよ。
和のことを『和也』って呼ぶか『和』って呼ぶかみたいな感じかな?」
翔の説明を興味津々で聞く智。
そこに電車が滑り込んできた。