第5章 Fantastic Version <双子2歳>
ビュッフェ台へと歩く潤と和也を見ながら雅紀が智に声をかける。
「さともご飯取りに行こうか?なにがいいかな?」
「しゃと、おしゃかなしゃん!ましゃは?ね?ましゃは?」
すっかり機嫌の治った智。
珍しく雅紀のことを「まさ」と呼ぶ。
どこでスイッチが入ったのかテンションが高い。
「俺はねぇ…なにがいいかな?……ってうわっ」
翔を待ちながら暢気に答える雅紀。
が突然慌てた声をあげた。
興奮した智がベビーチェアの上で立ち上がりバランスを崩す。
椅子ごと倒れそうになったところを雅紀が止めた。
「ふー、危機一髪。
智?お椅子の上に立ったら危ないよ?」
雅紀の腕に抱き留められ事なきを得た智。
次の瞬間、大声で泣き始めた。
雅紀としては安堵と注意換気を籠めて少し厳しめの口調で言っただけなのだが、いきなり泣かれて慌てる。
「ほら、智?もう大丈夫だから。
まーくん怒ってないよ?ね?怖かったね?
危ないからもう、しないよ?ね?
大丈夫、大丈夫。ご飯取りに行こう?」
背中を撫でながら宥めすかすがなかなか泣き止まない智。
えぐえぐと嗚咽を洩らしながら泣き続ける。
驚いたの恐かったのと雅紀の腕の中にいる安心感とがない交ぜになって涙が止まらない。