第5章 Fantastic Version <双子2歳>
翔の呼び掛けに応えずハラハラと涙を流す智。
翔が慌てて抱き上げる。
「智?どっか痛いの?」
翔の問いかけに今度は首を振って違うと答える智。
「じゃあどうしたの?」
もう一度聞かれて今度は口を開く智。
「ないの…、しゃと、ないの」
「『ない』ってなにが?」
「てぃっち、おはなし…しないの…」
しゃくりあげるように泣き出した智。
「かじゅしたのに…しゃと、ないの…。
しゃともおはなし…したかったのに…」
「そっかぁ…そうだね…智もスティッチとお話ししたかったんだよね…」
「うん、てぃっちとおはなし…」
「そうだね、そうだね…パパもしたかったけど
出来なかったよ。
だから智の気持ち、わかるよ?
でも和也が楽しそうだったから言えなかったんだよね?
智、優しいね?いいお兄ちゃんだね?」
翔は智を慰める。
ただ智に共感の意を示し、智が言いたいであろう事を言葉にする。
子どもって大人が思っているよりもずっと繊細だし、感情も考えも豊かだと思う。
ただ…アウトプットが難しいだけ。
表現の手段が未熟なだけ。
だから大人がその気持ちを代弁してあげる必要があると翔は思っている。
正直、泣き止ませたくてつい、智になにか買ってあげたりとか安易な手に出たくなる。
だけど、翔はそれをグッと我慢した。
それじゃ本当の意味で解決にならないから。
結局、和也にも不公平感が残るから。