第18章 ・【外伝】大王様とウシワカイモウト
及川はニィッと笑いながら文緒にそっと近づき、胸元で光るものをつまみあげた。
「こんなのつけちゃうなんて、」
つまみあげたのはIDタグのような形をした例の銀色のペンダントトップ、彫られた英字は明らかにあの牛島若利がこの義妹に贈った事を示すものである。
「こないだ会った時も思ったけどウシワカちゃんてばどんだけ。」
文緒は俯き恥ずかしそうに及川から目を逸らした。
「放っておいてくださいな。」
控えめに呟く。
「チームの方からも迷子札だの首輪だの散々にからかわれてますから。」
及川は吹き出した。これも笑うなという方が無理である。
「まだ言われてんの。」
「もう私が初めてつけたその日からずっと。兄様は迷子札でも首輪でもないと主張していますがその」
「俺しか聞いてないから遠慮なく言ってご覧。」
「形状が形状なので言われても仕方ないとは思ってます。」
「だよねー、ウシワカちゃんてば気がきかないんだから。もっと可愛いのあげたら良かったのに。ま、あの仏頂面が女の子にプレゼントしただけでも上等なのかな。」
「あの、お気持ちはわかりますがどうか仏頂面がどうのとは言わないでくださいな。」
「ホントお兄ちゃんラブだね。」
ああおかしいと及川は一息つく。牛島の義兄妹はますます面白いことになっているらしい。
「だけどさ」
ここで及川はふと呟いた。何かモヤモヤするものが込み上げてくるのだ。
「何だかんだ言って文緒ちゃんもそれはそれでいいと思ってない。」
顔を上げた文緒の目が見開かれた。
「どうして。」
「だってウシワカちゃんがこんな札つけて所有権主張してさ、周りも文緒ちゃんはウシワカちゃんのだって認めてる訳でしょ。安心だよね、誰かにおにーちゃん取られる心配も誰かに傷つけられる心配もそうそうないんだもん。」
「今及川さんに意地悪されておりますがそれは。」
「あれ、気づいた。」
じっと真っ直ぐ見つめてくる文緒に天然お嬢様も少しは学習するらしいと及川は思う。